はじめに
本記事の目的と構成
本記事の目的は、水漏れ・トイレ詰まりで悪質な高額請求トラブルの解決事例を詳しく解説することで同様の被害に遭わない準備、及び現在被害に遭っている方の解決の手助けとなる情報を提供することです。業者に依頼する前に理解しておくことで自分に最適な選択をするためのガイドとなることを目指しています。
鍵開けの高額請求トラブル紛争案件
今回は令和5年3月の「住宅の鍵開けサービス契約に係る紛争案件」の報告書をもとにわかりやすく解説を行います。最終的には被害者の救済が行われましたが、解決までに半年近くの時間を要しています。
クーリング・オフの適用可否をめぐる紛争案件の概要
深夜に帰宅した際、自宅アパートの鍵を紛失していることに気づいた。最寄りの交番でもらったメモに書かれた事業者をスマホで検索し、出張作業が8800円からと広告に記載されていたので、それくらいならと思い、事業者に電話をかけた。
コールセンターにつながり料金を尋ねると、実際に鍵を見ないと分からないと言われた。作業員が15分ほどで到着し、ドアを見て契約書面に金額と作業の内訳を書き込んだ。広告よりもかなり高額だったため、説明を求めたが、「特殊な作業だ」としか言われなかった。
キャンセルを希望すると、作業員からはキャンセル料が高額になることを示唆され、仕方なく書面にサインした。作業自体は5分程度で終了し、約6万円という高額な料金について作業内容の説明を求めたが、応じてもらえず、料金の支払いを強く求められた。自宅前でのトラブルを避けるため、やむを得ずデビッドカードで支払った。契約金額に納得ができず、2日後には消費生活センターに相談し、契約から8日以内にクーリング・オフ通知書を提出した。
当事者の関係性
申立人(消費者)1名 30年代女性
相手方(事業者)1社 鍵開けサービス事業者
申立人の主張
(1) 令和4年6月中旬、深夜にタクシーで帰宅し鍵がないことに気づく。鍵が交番に届いていることを期待して、自宅から最寄りの交番に向かったが届いておらず、代わりに警察官から「こういうところが24時間開けてくれるよ。」と鍵屋の屋号とフリーダイヤルが印刷されたメモを1枚渡された。
(2) 価格くらいは調べようという気持ちで、メモに印刷された鍵屋をスマートフォンで検索した。インターネット広告の「8,800 円(税込み)~」という表示を見てそれくらいならと思った。出張費や作業費,キャンセル料については分からなかったが24 時間対応で 8,800 円からという書き方だったので、深夜料金や急ぎ料金の割増はあり得ると思ったが高くても15,000 円以下だろうと思いフリーダイヤルに電話をかけた。
(3) 「鍵をなくしちゃったみたいで。鍵を開けてほしい。」と伝えると、相手から住所を聞かれ、到着までどれくらい時間がかかるという説明を受けた。「金額ってどれくらいかかりますか。」と尋ねると、「行ってみないと分からない。」、「鍵を見てからの判断となるので、基本的には到着してからの判断となる。」と言われた。
(4) 料金についてこのほかに説明はなく、キャンセル料についての説明もなかった。ドアや鍵の状態、どのような作業を望むのかなどということは聞かれていない。
(5) 電話をしてから、15 分から 20 分後くらいに相手方の作業員1名が車で来た。 作業員は、到着するとすぐに鍵の確認作業を開始し、「すぐに開きますよ。」、「そんなに難しくはない。」と言った。開け方については、特殊な方法(以下「本件の特殊開錠」という。)とのことだった。
(6) 作業員は、契約書面に56,100 円と書かれた見積額が高額であることに驚き、「広告に 8,800 円からと書かれているのに、何でこんなにかかるんですか。」と説明を求めたところ、細かい作業内容の説明はなく「これをやるので、この金額です、特殊な作業なんで。」としか言わなかった。
(7) あまりに高いのでキャンセルってできるんですか。と聞くと、「ここまで来ちゃっている以上、キャンセル費がかかる。」、「2、3万くらいはもらわないと。」とキャンセル料が料金全体の半分くらいかかるようなことを言った。また、「もう、いろいろと見ちゃっているので。」という発言もあり、鍵開けを頼まないと帰らないのだと思った。金額には全く納得できなかったが、鍵を開けるにしても、やめるにしても、どちらにせよ結構なお金がかかるのだと思い、仕方なく、契約書面の意向確認の署名欄にサインをした。
(8) この際、「チェックしてください。」と言われ、意向確認の各事項のチェックボックスにチェックを付けた。各項目についての説明は受けなかった。クーリング・オフについての説明も受けなかった。 鍵開け作業の様子は近くで見ていた。5分ほどで作業が終わったので、56,100 円という金額は、やはり高いと思った。
(9)「本当にこんなにかかるんですか。」、「もともと 8,800 円なのにおかしいんじゃないですか。」と言うと、作業員は、「作業をした後にそんなことを言われても困る。」と言い、なぜこのような金額になるのか、どのような作業をしたのかということは説明しなかった。仕方なく契約書面の作業完了確認の署名欄にサインをして、デビットカードで56,100 円を支払った。
(10) クレームを入れようと、2日後に契約書面に書いてあった電話番号に電話をし、作業員と話をした。「クーリング・オフみたいなことも考えています。」と言うと、「返金とか、そういったことは全く考えていない。」、「勝手にしてください。」と言われ、これ以上の交渉はできないのだと思った。 同日、消費生活センターに相談し、クーリング・オフ通知書を契約書面を受領した日から8日以内に出した。鍵を開けてくれたので、8,800 円は払ってもよい。
相手方の主張
(1) 当社は、A社のグループ会社であり、コールセンター業務やホームページの作成、運営業務を担当しています。当社はA社から鍵開け業務を委託されており、両社の代表取締役は同一人物です。
(2) 鍵開けの料金について:
- 作業内容と料金を示した料金表を作成しており、現場でお客様に説明しています。
- 出張料金5,500円は必ずかかります。
- 基本料金3,300円は、必ずかかる料金で、鍵穴に油を差すなどの簡易作業を含みます。
- 申立人の鍵のタイプによって、料金が異なります。特にピッキング防止機能がある場合は、特殊な開錠方法を用いる必要があり、その料金は27,500円に出張基本料金8,800円を加えた額です。
- 当社の鍵開け作業の大部分は「〇〇特殊開錠」を使用しています。
(3) インターネット広告について:
- 広告はA社が作成・管理しており、内容は把握しています。
- 広告には最低作業料金(8,800円)が表示されていますが、実際の契約金額はそれより高いことが一般的です。
- 実際に 8,800 円で終わる作業は少ない。当社の契約金額の実績では、3万円から4万円の間が最も多い。
- 表示されている技術や実績については、目標を示す意味合いと理解しています。
- 到着までの速さ、作業料金、実績数について、他社と比較する表示をしているがA社がどのような意図で、何を根拠に比較をしたのかまでは、分からない
(4) フリーダイヤルについて:
- コールセンター業務はA社が行っています。
- 当社はA社からの連絡を受けて現場に向かいます。料金の伝達はコールセンター経由であり、具体的な金額は現場の状況によって決定されます。
(5) 契約書面について:
- 全てのお客様に契約書面を渡しています。
- 契約書面にはキャンセル料に関する記載があり、最低作業料金と出張料金を明示していますが、具体的なキャンセル料金額は記載されていません。
- 申立人とのやり取りにおいて、契約内容について説明し、了承を得た後にサインをいただいています。
(6) 本件の勧誘及び契約について:
- 申立人からの依頼を受け、現場で作業内容と料金を説明しました。
- 申立人は特殊開錠の方法を選択し、契約書面に記載された料金に了承し、サインをしました。キャンセル料やクーリング・オフの案内は行っていませんでした。
- 作業完了後、デビットカードで56,100円を支払いました。デビットカードとクレジットカードは同じ扱いで、契約書の「クレジットカード」欄に〇を記入しました。
- 支払いは滞りなく行われ、作業完了後に署名をいただきました。作業に関するトラブルやキャンセルの申し出については何もありませんでした。
- 後日、申立人から返金を求める連絡がありました。申立人はキャンセル料がかかることに不満を示し、「クーリング・オフ」を要求しました。しかし、作業についての同意や手続きの終了についての記憶はありませんでした。また、依頼時点でクーリング・オフの適用除外と考えました。
(7) 当社の解決策:事態が被害救済委員会に付託され、申立人との合意が得られなかったことを受け止めています。作業料金の支払いは完了しており、解決のためにはこの点について合意したいと考えています。
問題点と争点
- 広告と実際の料金の差異。
- 作業内容や料金の明確な説明の有無。
- キャンセル料の高額さ。
- クーリング・オフの通知の有無と理解度。
この紛争の核心は、料金の透明性と申立人の同意の問題に集約されます。
申立人の契約書面記載内容
作業・部品 | 数量 | 金額(円) |
---|---|---|
出張基本料金 | 1 | 8,000 円 |
〇〇特殊開錠 | 1 | 25,000 円 |
●●部品交換 | 1 | 10,000 円 |
△△部品 | 1 | 8,000 円 |
小計 | 51,000 円 | |
消費税(10%) | 5,100 円 | |
合計 | 56,100 円 |
クーリング・オフを認める合意
【合意書の内容】
申立人と相手方の間で令和4年6月〇日に締結した住宅の鍵開けサービス契約(契約金額56,100 円。以下「本件契約」という。)は、訪問販売(特定商取引に関する法律第2条第1項第1号)に該当することから、以下のとおり合意する。
1 相手方は、本件契約が、令和4年6月〇日発送の申立人による申出により、特定商取引に関する法律第9条に基づき解除(クーリング・オフ)されたことを認め、申立人が相手方に対し、本件契約の代金として支払った56,100 円を申立人に対し返還する義務があることを認める。
2 相手方は、上記1の返還すべき金員56,100 円を、申立人の指定する銀行口座に令和5年〇月〇日までに、全額を一括で振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は、相手方の負担とする。
3 申立人と相手方は、本件契約に関して、本あっせん条項に定めるほか、何ら債権・債務のないことを相互に確認する。
まとめ最終的には被害者両名のクーリングオフが認められて、業者は被害者に支払済みの代金を返金することになりました。
さて、クーリング・オフが認められて双方和解に達したものの今回の認められる要因になった問点に対する法的根拠はどの様なものなのかを詳しくみておきましょう。
景品表示法に関する問題点
- 本件広告及び「現在の広告」の主体はA社であり、景品表示法の対象となる可能性があります。景品表示法は、顧客を誘引する手段として行われる広告に適用されるため、本件における鍵開けが「自己の供給する役務」に該当するかどうかが検討される必要があります。
- A社は消費者に直接的な鍵開けの役務提供をしていませんが、A社グループとして、A社と相手方が役割分担をして一体として事業を行っている関係にあります。また、相手方の契約書面には「A社グループ」と自社の会社名が併記されています。そのため、A社が行った広告は景品表示法の適用を受ける可能性があります。
- A社が広告を行っていない相手方についても、景品表示法は適用されません。しかし、A社と相手方の密接な関係や相手方が広告内容を認識した上で事業を行っている実態を考慮すると、A社の広告に関する景品表示法上の問題点について相手方に指摘を行うことが有用であると考えられます。
以上の点を踏まえ、A社の広告に関する景品表示法上の問題点について次の通り解説します。
ア 優良誤認
表示内容 | 相手方の主張 |
---|---|
鍵開けの技術等について、「ナンバーワン!」 | 技術力には自信がある、ナンバーワンを目指しているという意味と理解している |
- A社が広告で「ナンバーワン!」と表示しているが、客観的な調査に基づくものではない。
- 表示が優れていると誤解させる可能性がある。
イ 有利誤認
表示内容 | 相手方の主張 |
---|---|
「5,500 円(税込み)~鍵開け」 | 「5,500 円」は出張料金を示している |
「基本作業費3,300円(税込み)~はいただきます」 | 「3,300 円」は基本作業費を示している |
「一般的な鍵の出張作業8,800円(税込み)~」 | 「8,800 円」は基本作業料金である |
- 広告には実際の価格や内容と異なる表示があり、消費者が誤解する可能性がある。
- 総額の上限や料金の具体的な記載が不足している。
ウ 比較広告表示に関する優良誤認及び有利誤認
比較対象 | 到着までの速さ | 作業料金 | 実績数 |
---|---|---|---|
X 社 | 50 分 | 13,200 円(税込) | 10 万件 |
Y 社 | 30 分 | 6,600 円(税込) | 1 万件 |
Z 社 | 20 分 | 11,000 円(税込) | 3 万件 |
当社 | 16 分 | 8,800 円~(税込) | 10 万件以上 |
- A社は他社との比較を広告しているが、客観的なデータがないため、不当表示の可能性がある。
- 比較広告が不当表示にならないよう、正当性・妥当性の確保が必要。
消費者契約法に関する問題点
ア 事業者の努力義務
キャンセル規定の説明に関する努力義務が不十分である。
契約書面に記載された「サービス約款」にはキャンセル料の規定があるが、具体的な金額が明示されていない。
キャンセルによって発生する損失に関する情報が不十分で、高額なキャンセル料を提示することで消費者を圧迫している可能性がある。
イ 作業内容及び作業代金の説明に関する努力義務
作業内容や料金についての説明が不十分である。
鍵開けの方法や料金の内訳についての明確な説明がない。
ウ 契約締結前に契約締結を目指した事業活動を実施し、これにより生じた損失の補償を請求
キャンセル料の請求に関して当事者の主張が対立しており、事実関係が明確ではない。
相手方がキャンセル料を請求した場合、事前にキャンセル規定を説明せずに消費者に圧力をかけていた可能性があり、これが法的に問題となる。
ケーススタディ
さて、クーリング・オフは明らかに法的な違法である契約に対して業者との話し合いが平行線になった場合の被害者救済の最終手段であり今回の件は被害者側の主張が認められた事により救済が行われましたが、全てがこの様にうまく解決する訳ではありません。
例えば、クーリング・オフを申請した業者が倒産などで姿を消していた場合どうなるでしょう?
また作業の手配を行った業者側の主張に関しても、広告会社にまかせているので細かい事は知らない。分からない。など責任の所在が曖昧であり、これは最初から高額請求するつもりで過剰な広告で利用者を集めていたのかどうかまでは今回の判例だけでは断定することは出来ないのも事実です。
利用者はトラブルになっても慌てずに正しい情報を身につけた上で業者に依頼する。また業者は、適切で透明性のある正しい情報を発信することが重要です。
よって今回の判例からのケーススタディは以下でまとめておきます。
利用者側
・信頼のできる情報を見分ける知識を身につける
業者側
・利用者に正しい情報を提供する
さて、今回は住宅の鍵開けにおける高額請求トラブルのクーリング・オフに関する事例をまとめました。お困りごとを助けてくれる出張業者は時にはヒーローの様な存在です。皆様が正しい知識を身につけユーザー体験のFeedbackを行なってくれることで他に困っている方のみならず、修理事業者にとっても非常に大事な情報であり業界の健全化と活性化につながります。
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